健康

【医師監修】トラウマと心のケア|トラウマが原因で起こるPTSD 女性のこころとからだ事典

■記事監修医師
武蔵野女子大学人間関係学部教授
臨床心理士、精神科医、医学博士
小西 聖子 先生

 

●トラウマって何?
今や日常の会話でもよく使われるようになった「トラウマ」という言葉。過去に受けた傷という意味で広く使われているようですが、専門的には「普通では対処しきれないような大きな打撃を受けたときにできる精神的な傷」のことで、日本語では「心的外傷」と訳されています。
●トラウマとなる出来事
戦闘の経験、強盗、誘拐などの犯罪被害、強姦、児童虐待、性的虐待、家庭内暴力、事故、自然災害などがあります。自分の命をおびやかすような経験だけでなく、家族や友人の死に直面したり、死の場面を目撃したことが、トラウマとなることもあります。

●トラウマとPTSD
レイプにあったOLのケース
21歳になるOLのAさんは、2ヶ月ほど前、残業をして帰宅の途中、男に脅されてレイプされてしまった。事件後しばらくのことは、何も覚えていない。今も暗いところが恐ろしくて、夜も明かりを全部つけたまま、それでもほとんど眠れない状態がつづいている。外出しようとしても、男性を見ると恐怖感から心臓が苦しくなって外に出られない。何をする気にもならず、ただボーッと過ごす毎日だ。

息子をなくした母親のケース
Bさんは、1年前6歳になる息子を交通事故でなくした。お葬式のときは感情がなくなったようで涙も出ず、夢を見ているようだった。その後はほとんど眠れず、食欲もない。事故のことを思い出してばかりで、何も手につかない。テレビで事故のニュースも見られないし、事故のあった場所にも近づけない。あの日、息子を遊びにいかせた自分を責める毎日がつづいている。

幼児期に性的な虐待を受けて育ったCさんのケース
幼いころ、同居していた叔父から性的虐待を受けていた23歳のCさん。人とうまくつきあえず、常に不安でビクビクしており、安らぐことがない。過食や拒食をくり返し、時には重いうつ状態になり、「自分には生きている価値がなく、死んだ方がいい」と思ってすごしてきた。人にノーといえず、性的なことを強要されても断れない。夢でうなされることも多く、熟睡することはほとんどない。

上の3つのケースは、トラウマの後に起こる反応の例で、PTSDという病気の典型的な症状です。PTSDは、Posttraumatic Stress
Disorderの略で、“心的外傷後ストレス障害”と訳されています。1980年にアメリカで名付けられた病気で、日本では1995年の阪神・淡路大震災以来、マスコミにも取り上げられ、一般にも知られるようになってきました。

普通では対処しきれない、ショッキングな出来事に遭遇した後に、典型的な症状のいくつかが一ヶ月以上つづき、日常生活を送ることも困難な場合に、PTSDと診断されます。

text/Mami Kakuta
illustration/Tomoe Sasaki

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